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仙台高等裁判所 昭和33年(ネ)261号 判決

控訴人 舟木藤八承継人 舟木茂

右訴訟代理人弁護士 勅使河原直三郎

被控訴人 一ノ瀬義雄

右訴訟代理人弁護士 五十嵐芳蔵

同 岡本共次郎

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し、別紙目録記載の物件につき、昭和三二年二月二〇日競落許可決定にもとづき福島地方法務局若松支局昭和三二年四月三〇日受付第三、一五一号で抹消された(一)権利者舟木藤八の同支局昭和三〇年一二月一六日受付第六、八二四号同年五月七日売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記(二)取得者舟木藤八の同支局昭和三一年八月一八日受付第五、六八六号昭和三〇年五月七日売買による所有権移転登記の各回復登記手続並びに右受付第三、一五一号でされた(三)取得者被控訴人の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次に記載する事項のほか、すべて原判決摘示事実と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人の陳述

(一)  別紙目録記載の本件建物につき、債権者満田よしが福島地方法務局昭和三一年五月一五日受付第三、二八二号をもつて設定登記した抵当権は、控訴人先代舟木藤八が経由した本件仮登記の効力を無視したものであり、同人に対抗することができないことはいうまでもないから、右抵当権実行による競売並びに競落手続は無効である。したがつて、被控訴人は競落により本件建物の所有権を取得するに由なく、被控訴人の競落が有効であることを前提に舟木藤八の本件仮登記並びに本登記を抹消したことは違法であるから、被控訴人は控訴人に対し、所有権移転登記の抹消登記手続並びに舟木藤八の仮登記及び本登記を回復する義務があると信ずる。

(二)  舟木藤八は昭和三三年一〇月二二日死亡し、その妻舟木キミ、長男控訴人、四男舟木稔、長女高橋イヲは同人の遺産を共同相続するとともに、同人の訴訟上の地位を承継し、控訴人を除くその余の共同相続人は控訴放棄の申立をしたのであるが、控訴人ら共同相続人は、右キミらが控訴を放棄すると否とにかかわらず、本件建物を共有するのであるから、その一人である控訴人は他の共有者のため保存行為として前記抹消並びに同復登記手続を請求することができる。

被控訴代理人の陳述

(一)  舟木藤八が本件建物につき、昭和三〇年一二月一六日、同年五月七日売買予約を原因として請求権保全の仮登記を経由したこと及び同人が同年八月一八日もと本件建物の所有者であつた斎藤作松に対し、予約完結の意思表示をしたことは争わない。

(二)  控訴人は、右斎藤作松が債権者満田よしのため設定した抵当権は、控訴人先代舟木藤八が経由した仮登記後のものであり同人はその後本登記を経由したから同人に対抗することができない旨主張する。

しかし、仮登記は本登記と同一の効力を有するものではなく、後に本登記を経由した場合、本登記の順位を仮登記の日にさかのぼり保全する効力を有するに過ぎない。(昭八・二・一七大審院判決、民集一二巻三号二三七頁)

そして、不動産登記法第二条第一号所有権移転の仮登記においてその本登記を経由した場合は、仮登記にさかのぼり該物権変動につき対抗力を生ずるから仮登記と本登記との間にされた物権変動はその限度において効力を否定されるけれども、同条第二号の請求権保全の仮登記においてその本登記を経由した場合の対抗力は、請求権が実現された以前にさかのぼることはできない。(昭八・三・二八大審院判決、民集一二巻四号三七五頁)

控訴人が主張する本件仮登記は、売買予約による請求権保全の仮登記であるから、その予約完結の意思表示をした昭和三一年八月一八日にはじめて物権変動につき対抗力を生じたものというべきである。

したがつて、控訴人が主張するように、競売及び競落手続に違法なく、競売裁判所が被控訴人に対し本件建物につき競落許可決定を言渡し、被控訴人に所有権移転登記を経由するとともに、舟木藤八の本件仮登記及び本登記の抹消登記を経由したことは相当である。

(三)  仮に、控訴人が主張するように回復登記の請求権があるとするも、控訴人はその共同相続による持分についてのみこれを有するに過ぎないから、他の共同相続人の持分についてはその権利を行使することはできない。ところで、控訴人を除くその余の共同相続人らは、控訴を放棄したから、これらの者との間においては第一審判決が確定し、回復登記の請求権を失つた。

証拠関係

被控訴代理人は原審で提出した甲第四ないし第六号証の成立を認めた。

理由

(一)本件建物がもと斎藤作松の所有であつたこと、控訴人先代舟木藤八が本件建物につき福島地方法務局若松支局昭和三〇年一二月一六日受付第六、八二四号をもつて所有権移転請求権保全の仮登記を経由したこと、債権者満田よしが本件建物につき同支局昭和三一年五月一五日受付第三、三八二号をもつて九万円の債権につき抵当権設定登記を経由したこと及び被控訴人が右抵当権実行による競売において本件建物を競落し、昭和三二年四月三〇日所有権移転登記を経由したことは当事者間に争がない。

成立に争のない甲第六号証によると、舟木藤八は、昭和三〇年五月七日の売買予約を原因として右仮登記を経由し、かつ、本件建物につき、同支局昭和三一年八月一八日受付第五、六八六号をもつて昭和三〇年五月七日売買による所有権移転登記を経由したこと、満田よしは、昭和三一年五月八日付和解調書にもとづく同日付抵当権設定契約を原因として右抵当権設定登記を経由したこと、満田よしは、以上の抵当権にもとづき、福島地方裁判所会津若松支部に対し抵当権実行による競売申立をし、同裁判所は昭和三一年八月一四日本件建物につき競売開始決定をし(同日登記)、昭和三二年二月二〇日同裁判所の競落許可決定にもとづき同支局同年四月三〇日受付第三、一五一号で、被控訴人が右所有権移転登記を経由し、かつ、舟木藤八の前登記仮登記及び本登記の抹消されたことが明らかである。

(二)  控訴人は、満田よしの抵当権は舟木藤八の仮登記後に設定登記を経由したものであり、藤八の仮登記に反するから同人に対抗することができない旨主張するので判断するに、不動産登記法第七条第二項は、仮登記後本登記を経由した場合、本登記の順位は仮登記の順位によるべき旨を規定しているから、仮登記は、後日本登記がされると、本登記の順位を仮登記の日にさかのぼつて保全する効力を有し、仮登記と本登記との間にされた中間処分で本登記の内容に牴触するものは総べて無効となるわけである。

ところで、舟木藤八が斎藤作松から本件建物の所有権を取得したのは、昭和三〇年五月七日(甲第六号証による。売買予約の日と同じ日である。)であるから、藤八が仮登記を経由した同年一二月一六日にはすでに物権変動が生じていたのであり、したがつて、その仮登記は同法第二条第一号によるべきものであつて、同条第二号によるべきものでないが、所有権移転の仮登記をすべき場合に、所有権移転請求権保全の仮登記をしても、右仮登記は順位保全の効力を有する(最高裁判所判例集一一巻六号九三七頁)から、藤八の右仮登記による本登記が経由された以上、右本登記内容の実現と牴触する中間処分は総べてその効力を失うものといわなければならない。してみれば、右仮登記とその本登記との間に設定登記を経た満田よしの抵当権は、右本登記後は藤八に対する関係で無効となり、その競売手続はもはやこれを続行することができなかつたわけであるから、被控訴人は、本件競落許可決定によつて本件建物の所有権を取得するいわれなく、したがつて、被控訴人は藤八に対し右競落許可決定を原因としてされた(1)所有権移転登記の抹消登記手続をし、(2)かつ抹消された藤八のための前記仮登記及び本登記の回復登記手続をすべき義務あるものといわなければならない。

(三)  被控訴人は、藤八の右設定登記による売買予約が予約完結の意思表示によつて物権変動の効力を生じたのは、昭和三一年八月一八日であるから、それよりも前にされた抵当権者満田よしに右物権変動を対抗し得ないと主張する。本登記がされた場合の物権変動の対抗力の時期については、(1)せまく本登記の日からとするもの、(2)ひろく仮登記の日にさかのぼるとするもの、(3)同法第二条第一号の場合は仮登記の日にさかのぼるが、同条第二号の場合は物権変動の生ずべかりしとき、または生じたときとするものなど諸説がある。しかし、当裁判所は、本登記の順位と本登記による物権変動の対抗力とは別個の問題であると考える。すなわち、本登記による物権変動を対抗されるから中間処分が無効となるのではなく、同法第七条第二項の規定によつて本登記の順位による結果、本登記が中間処分に優先すると解する。したがつて、藤八の本件仮登記の日が満田よしの右抵当権設定登記の日よりも前であれば足りるのであつて、右仮登記による物権変動がいつ生じたかは問う必要はない。

(四)  被控訴人は仮に控訴人が本件仮登記及び本登記の回復登記請求権があるとするも、藤八の遺産を相続した控訴人を除くその余の共同相続人は控訴を放棄したのであるから、これら共同相続人の関係において原判決が確定し、回復登記請求権を失つたと主張するが原判決並びに本件記録によると藤八は原審で被控訴人に対し単にその経由した所有権移転登記の抹消登記手続のみを求め、藤八の承継人である控訴人が当審で右の請求を拡張し、前記回復登記手続を求めるに至つたこと及び原審は前記回復登記手続につきなんらの判断をしていないことが明らかであるから、控訴人を除く他の共同相続人が控訴を放棄しても、もとより本件仮登記及び本登記回復登記請求権の存否につき、原判決が確定する余地はない。

そして、控訴人が他の共同相続人とともに藤八の遺産相続をしたことは当事者間に争がないから、控訴人は他の共同相続人ととも本件建物を共有しているというべく、したがつて控訴人は保存行為として、単独で、本件建物に対する前記仮登記及び本登記の回復登記手続並びに被控訴人が経由した所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができるものといわなければならないのであり、控訴人以外の共同相続人が控訴を放棄すると否とは、控訴人の本訴請求に影響を及ぼすものではない。

(五)  以上と異なり、舟木藤八が被控訴人に対しその経由した所有権移転登記の抹消登記手続を求める本訴請求を棄却した原判決は失当であるからこれを取消し、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条・八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤規矩三 裁判官 鳥羽久五郎 羽染徳次)

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